エンターテインメントに込められたメッセージ
痛快な西部劇仕立てではありますが取り上げられている題材は重くてシリアスなもの。
19世紀、アメリカ南部テキサス州やミシシッピ州の荒野、または綿花農場を舞台とする、アウトローと賞金稼ぎ、そして保安官。支配者層と黒人奴隷らによるスリリングなストーリーの作品です。
西部開拓の陰で白人社会の犯してきた過ち…黒人奴隷という歴史の負の部分が取り上げられています。
次のような、教育的とは対極の、しかしリアルな設定や台詞も随所に盛り込まれています。
※ マンディンゴ=奴隷デスマッチなどという、これが事実なら相当ショッキングな
19世紀の支配層にとっての“エンターテインメント”。
※ ”NIGGER” という差別用語が連発。スコセッシ監督のオスカー受賞作
“ディパーティッド” 中の “F**K” を思い出した…。
ただ、そうした過去の米国が犯してきた過ちから目を背けることなく、史実を正面から受け止め、反省から出発しようという気概のようなものを感じるし(リアルさの追及という意味で、 “NIGGER” は必要だったのだろう)、作品自体は往年の西部劇の名作へのオマージュ(作品名は無学にて特定できず)にあふれたエンターテインメント作品なので、嫌悪感を抱くようなことはありませんでした。
もちろん、これまでのこの監督作品と同様、血はたくさん流れるし、人によって好き嫌いの分かれる(少なくともデート向きではない)作品ではあるでしょうけれど。
挿入曲のひとつ ジム・クロウチ の ” I GOT A NAME ” 。70年代テイストに溢れていて、タランティーノのニュー・シネマへの憧憬が見て取れますね。
哀愁のメロデイに70年代ポップス…マカロニウエスタンかニューシネマか
これまでのタランティーノ作品同様、挿入歌がセレクト、タイミングとも絶妙過ぎるほどにツボをついてきます。音楽が作品にアクセントとテンポを与え、2時間半以上あるのに中だるみを一切感じませんでした。映画だけでない、監督の音楽に対する造詣の深さを感じます。
テーマ曲“DJANGO”、エンリコ・モリコーネによるオリジナルの哀愁溢れるメロデイ、そして曲名は分かりませんが一聴してそれと分かる70年代の珠玉のポップスなどが流れると、私のような“素人”でも一瞬にしてフランコ・ネロやジュリアーノ・ジェンマの マカロニウエスタン や ニュー・シネマ “ 明日に向かって撃て ” が脳裏をよぎるし、引きずるような重いヒップホップは黒人奴隷らの支配層に対する秘められた憤怒の心情を表すようでした。
ハリウッド・スターを食う存在感!ずる賢くて冷徹なドイツ人
演技陣の中では、 レオナルド・ディカプリオ や ジェイミー・フォックス といったハリウッドスターらに囲まれて、前作 “イングロリアス・バスターズ” に続く2作連続のタランティーノ映画への出演、そして2作連続オスカー受賞の クリストフ・ヴァルツ の存在感が際立っています。前回と同じく、紳士的な所作でありながら、その素顔は冷酷で狡猾な、多国語を操るインテリのドイツ人というキャラクターは、2作目にしてすでに「はまり役」という感を強く抱かせ、これからもぜひ続けて観てみたいキャラクターになっています。
メッセージ性あるいはヴァルツの演じたキャラクターを考えても、エンディングでナチスドイツの非人道性に鉄槌を浴びせた前作との一連性を感じさせる作品でした。
タランティーノのジャンルを問わない映画フリークぶりは本当にすごいし、明確なメッセージを発信するようになったことで作品が一層の輝きを持ち始めた気がします。
いつか 「武士道」 をテーマに、黒沢明監督や小林正樹監督へのオマージュとなる日本の時代劇を撮ってくれないものでしょうか。
「ジャンゴ 繋がれざる者」(2012、米。脚本・監督:クエンティン・タランティーノ。出演:レオナルド・ディカプリオ、ジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツ他)