▼‘本’ カテゴリーのアーカイブ

14.06.10

ボストンの北斎、日本に里帰り中

先日、神戸市立博物館で開催中の「ボストン美術館 浮世絵名品展 北斎」に行ってきました。
世界屈指の日本美術コレクションで知られる米国・ボストン美術館所蔵の北斎作品の数々が、現在日本に里帰り中なのです。
代表作「冨嶽三十六景」や「諸国瀧廻り」、「百物語」などの他、世界中でボストン美術館にしかないという珍しい作品も出品されています。
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絵画には全く詳しくない私ですが、なぜだか浮世絵はとっつきやすく、面白いな~と思っていました。
マンガチックなデフォルメ具合に惹かれるのかもしれません。

今回の北斎作品、緻密さや躍動感の素晴らしさはもちろんのこと、そこに描かれた当時の風俗そのものにも興味をそそられます。
「○○という版元から出版されたものです」などという説明があると、「版元(出版社のこと)」っていう言葉もこのころからあるんだよなぁと、しばし感慨にふけったりもしてみました。
また、解剖学的にみてもかなり正確だという骸骨や、西洋絵画を意識したと思われるもの、だまし絵(隠し絵?)みたいなものなど、実験的試みや遊び心のあるものも多く見られ、晩年になってなお、
猫一匹すら(満足に)描けねぇ
と嘆いたといわれる北斎のあくなき向上心、好奇心をうかがうことができます。


『もっと知りたい葛飾北斎―生涯と作品』

そして浮世絵といえば、歌舞伎とも縁が深いということで、音声ガイドのナビゲーターは四代目市川猿之助さんでした。

『祝!四代目市川猿之助襲名記念 僕は、亀治郎でした。』

その猿之助さんも出演されていた「伝統芸能の今」という公演が先月倉敷でありました。
津軽三味線と狂言のコラボ、津軽三味線をバックにした猿之助さんの創作舞踊、一つの演目を狂言と歌舞伎で演じるなど、異ジャンルのアーティストたちによるコラボレーション、すごく面白い舞台でした。
「ゴールドリボン」と「世界の子どもにワクチンを」のチャリティー企画ということで、演者さんたち自ら募金箱を持ったり、客席を回ってのプログラム(手ぬぐい付き)販売などもされていました。
かなり間近で拝見した猿之助さんのお顔(たぶんすっぴん)は、毎日白塗り厚塗りしているはずなのに、スベスベつるつる、すごくキレイでびっくりしました!秘訣を教えてください!!
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昨年あたりから、様々なジャンルのコラボ芸術舞台をいくつか見る機会がありました。
それらの斬新な試みは「邪道」といわれることもあるでしょう。
ですが素人にとっては、とっつきやすくて面白い。
入り口としては、そういうものもあってよいのではないかと思います。

そして時には、そんな素人目線、というか「外からの視点」というのが大きな意味を持つことがあります。
明治維新以降、西洋志向が強まり、伝統文化は軽んじられていった。
多くの日本美術品が市場に放出され、二束三文で扱われたといわれています。
そんな時、日本美術に魅せられ、価値を認めたのは異国の人々でした。


『ボストン美術館秘蔵 スポルディング・コレクション名作選』

素晴らしい日本美術品の多くが今、ボストンにある。
それを文化財の海外流出と捉えると残念な気もしますが、その後の歴史を考えると、もしも海を渡っていなければ、現在まで残ってはいなかったかもしれない、とも思えます。
そして何より、今なお鮮やかな色彩を放つ北斎作品の、その保存状態のよさに、とても大事にされてきたのだということが見てとれ、「ボストン、ありがとう!」 という感謝の思いで一杯になるのです。

今回出品されている作品は、少なくとも今後50年間、他館への貸し出しはもちろん、ボストン美術館においてですら公開はしないといわれています。
人気のため混雑は必至ですが、興味がおありの方は、この機会に是非!!


『北斎決定版』

海外では「BIG WAVE」と呼ばれる「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」。
それにインスピレーションを受けて作られたのが、ドビュッシーの代表作、交響詩「海」。

「ドビュッシー:管弦楽曲集」

20世紀を代表する建築家、フランク・ロイド・ライトも浮世絵に魅せられた一人でした。
ボストンの大富豪、ウィリアム・スチュアートとジョン・テイラー・スポルディング兄弟がボストン美術館に寄贈した多くの浮世絵版画は、当時日本に滞在していたライトを通じて購入したものなのだそうです。

フランク・ロイド・ライトの建築遺産

朝一が比較的すいているとの噂ですが、私は土曜日限定の「イブニング・レクチャー(学芸員さんによる展覧会の見どころ解説)」狙いで、夕方5時前に到着しました。
その時点で45分の入館待ち!!
ですが、展示コーナーには入れずとも、レクチャーの行われる講堂には入れるのです!
何だかお得!
土曜日夕方、お薦めです!

14.04.23

I LOVE SUSHI!!

お肉派?魚派?と聞かれたら、迷わず「魚派!」と答えることにしているもっちです。
もちろん、お寿司(鮨)にも目がありません!
本日、オバマ米大統領が来日されますが、安倍首相との夕食会の場として希望されたのが、銀座の高級鮨店「すきやばし次郎」なのだそうです。
そのニュースを聞き、昨年見に行った映画を思い出しました。

「二郎は鮨の夢を見る」【DVD】


全米で賞賛を浴びた話題沸騰の珠玉のヒューマン・ドキュメンタリー
ミシュランガイド東京三つ星に輝く「すきばやし次郎」
世界を魅了する“奇跡の味”に隠された87歳の鮨職人、小野二郎の生き方。

東京・銀座の地下にあるたった10席ほどの鮨店・すきやばし次郎の店主・小野二郎。
87歳の今でも職と技に対するこだわりを持つ彼が握る鮨は、「ミシュランガイド東京」で5年連続で最高の三つ星の評価を受け、フランス料理最高シェフのジョエル・ロブションや、ハリウッドセレブなど、世界中の食通たちをうならせてきた。
そんな彼の作り上げていく鮨の味に驚嘆し、職人としての技や生き様に魅了された、アメリカ人監督のデヴィッド・ゲルブ。
あのメトロポリタンオペラの総帥、ピーター・ゲルブ氏の息子でもある彼は、来日中に「すきやばし次郎」の鮨と出会い、その芸術性に感動して映画制作を決意。約3ヶ月にわたり東京、静岡と密着取材を敢行した。日本人の私たちが忘れかけた、親子であり師弟でもある二人の息子を通じて描かれる、二郎の仕事に対する誠実な姿勢。偉大なる父への敬意、そして葛藤…。
世界が認める名店を支える者たちのプライドと仕事にかける情熱を、温かくもモダンな映像とクラシック音楽の旋律とともに美しく浮かび上がらせてゆく。
                                      (Amazon「内容紹介」より)

二郎さんのことは、以前NHKのドキュメンタリー番組で見て知っていました。(これです)
「プロフェッショナル 仕事の流儀 修行は、一生終わらない 鮨(すし)職人 小野二郎の仕事」 [DVD]


ただ、これはアメリカで制作された映画ということで、日本の「職人の世界」というものが、海外の人の目にはどう映るのか、どのように描かれるのか、すごく興味がありました。
期待と不安が入り混じりながらの鑑賞でしたが、これが良かったんですよね~。

日々の仕事、87歳にして未だ衰えることのない情熱、親子の葛藤・・・。
どこまでも真摯に追求し続ける姿、それぞれにこだわりをもった仕事人たちの生きかたが、敬意をもって描かれていました。
公よりも私を優先することが許されてしまう今の時代、7歳で奉公に出され、がむしゃらに働いてきた二郎さんと同じような覚悟で向き合うことは難しいだろう。
息子さんは大変だと思いますが、まさに「職人魂」といえる二郎さんの姿勢と情熱は、やっぱりカッコイイと思いました。

「ずっと同じことをやっていたんじゃ、落ちたと言われる。前よりもいいものを作り続けてはじめて、変わらないねと言ってもらえる」という息子さんの言葉もすごく印象的でした。

「獺祭」でお馴染み「旭酒造」の社長が、「カンブリア宮殿」で、まさに同じことを言われていました!
「お客さんっていうのは進化するから、一定のところで守っていると必ず、落ちたねと言われる。常に上を狙っていかないと、変わらないねとは言ってもらえない」と。

大転換・大改革の末に再生した旭酒造と、匠の技を守りながらも更なるブラッシュアップで高みを目指す「すきやばし次郎」。
アプローチの仕方は全く違うのに、その根底にあるものは同じ、というのがすごく面白いな~と思いました。

「逆境経営」


獺祭、美味しいですよね~。初めて飲んだ時の感動は、今でも忘れられません。
この前、フジワランと共同購入しました♪

そして、映画に出てくるお鮨の美味しそうなこと!
クラシックの旋律に乗って目の前に供されるお鮨たち。見た目はすごくシンプルなのに、その一つ一つが芸術作品のように美しい。

『すきやばし次郎 旬を握る』

一見シンプルなこのフォルムの裏に、一体どれほどの手間隙がかけられていることか!

「極めると、シンプルな美しさとなる」
ここで思い出すのがアップルです。
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アップルストアに行かれたことのある方はご存知かもしれませんが、あそこのエレベーターにはボタン(△とか▽とか)の類が一切ないんです!
初めて行った時には戸惑いました。

「フラットになってるだけで、どこかにあるのか?」「いや、無いぞ。もしやこれは自動運転?」
しばしたたずんでいると、降りてきました。そして、開きました。
乗りました。階ボタンもありません。
2F着きました。開きました。
降りる人・乗る人いません。閉まりました。
3F着きました。開きました。
降りる人います。降りてます、降りてます・・・
みんな降りました。閉まりました。
・・・という具合。

「極限までそぎ落とす」というこの美意識が「アップルさんだなぁ」と思いました。

アメリカ版のパッケージはこんな感じ。
Jiro Dreams of Sushi [Blu-ray] [Import]

ニューヨークのデリやスーパーでも、パックに入った「SUSHI」をよく見かけました。
「SUSHI」コーナーにまっしぐらに走り
「SU――SHI―――!」\(゜▽゜=))/…\((=゜▽゜)/ワーイ♪
とすごくテンションの上がっている子どもがいて、アメリカでの寿司人気も本物なのだと実感しました。

そして、JIROのSUSHIが、日米の信頼関係改善に一役かってくれることを願っております。
そして私も、死ぬまでに一度でいいから行ってみたいなぁ、次郎。(゜-、゜)ジュル

14.02.21

 前人未踏の浅田真央

泣きました。o(iДi)o

ソチ五輪クライマックス(←私基準)、フィギュア女子フリー。
前日のSP、まさかまさかの結果に、気持ちを立て直すのも大変だったと思います。
ですが、ですが、やっぱり真央ちゃんはすごい!!

重厚なラフマニノフは真央ちゃんに似合わないともいわれますが、絶望のどん底から這い上がり、作りあげた復活の曲「ピアノ協奏曲第2番」は、もがき、苦しみ、それでも挑み続ける、まさに真央ちゃんにぴったりの曲だったと思います。
その鬼気迫る演技に、彼女の努力、そしてこれまでどれほどのものと闘ってきたのかを思い、涙が止まりませんでした。


「ラフマニノフ: ピアノ協奏曲第2番」

トリプルアクセル成功!8トリプル決まった!
なめらかで伸びのあるスケーティング、
美しいスピンにスパイラル、
そして超絶ステップ!!
「これぞ浅田真央!」
という圧巻の演技を見せてくれました。
これまでで一番、胸に迫る演技、感動しました!

この表紙の真央ちゃん、すごくカッコイイです。

「Sports Graphic Number」2014年 2/13号

もう何年も、フィギュアの採点にはモヤモヤすることが多く、大好きなのに、好きだからこそ、競技を見るのが辛くなっていました。


『フィギュアスケート 銀盤の疑惑』

曲の解釈とか出来栄えとか、ジャッジの主観・裁量による不透明な基準で、いくらでも加点・減点できてしまう現在のシステムにおいて、得点とか順位とか、もはやどれほどの意味があるのだろう。

それよりも真央ちゃんが、集大成にふさわしい素晴らしい演技を見せてくれたことがうれしくて、今はただ、すがすがしい気持ちでいっぱいです。\(^▽^)/

記憶に残る演技、そして前人未踏の記録にも挑戦しました。

前回バンクーバーでは
「史上初!ショート・フリー合わせ、3回のトリプルアクセル成功!!」
という記録を打ちたてた(ギネス認定)。

さらなる高みを目指した今回は、
「史上初!トリプルアクセル含む6種類の3回転ジャンプを8回成功!?」
すべて回りきったかに見えましたが、惜しくも回転不足判定があったようです。

ですが、この挑戦自体
「浅田真央にしかできない」
ものだったと思います。

どこまでも高みを目指し、自分の限界に挑戦し続ける浅田真央選手は、
紛れもないNO.1スケーターで、トップアスリートだと思います!!


『浅田真央 そして、その瞬間へ』

真央ちゃん、素晴らしい演技をありがとう!!私たちは大満足です。
そして、ひとまずはゆっくり休んでください。

14.01.22

 うちの冷蔵庫が乗っ取られる?(><)

我が家の冷蔵庫はそんなハイテク家電じゃないので問題ナシなのですが、
企業向けのデータ保護サービスを手掛けるアメリカの会社が、こんな発表をしてニュースとなっていました。


【ITpro 1月22日配信記事より一部抜粋】

米Proofpointは現地時間2014年1月17日、テレビや冷蔵庫などのスマート家電から大量の不正メールが送信されたことを確認したと発表した。「物のインターネット」を利用したサイバー攻撃の最初の事例の1つだとしている。
Proofpointによると、10万台以上のスマート家電がハッキングされ、75万通以上のフィッシングメールやスパムメール送信に使われた。乗っ取られたスマート家電には、家庭内ネットワークのルーター、マルチメディアセンター、インターネットテレビ、そして少なくとも1台の冷蔵庫が含まれるという。

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このように、ネットにつながるいわゆる「スマート家電」は、PCに比べてセキュリティが手薄で(利用者にも危機意識は薄く)、簡単に不正侵入されてしまう可能性があるということは、以前より指摘されていました。

まさに、まさに、この本、に書かれていることではないですかーーー!!!

ネットセキュリティの社会情報学
どうする?スマート家電を狙う脅威!メーカーが負うべき責任は?

大手電機メーカー(パナソニック)で、長年ネット家電プラットフォームの開発・運営、セキュリティ問題に第一線で携わり、大学での研究も行ってきた著者。
極めて実務的かつ理論的な問題解決アプローチです。

余談ですが・・・
書きながら「“ハイテク”って死語?」と思ったのですが、でも「ハイテク株」とか今でもいいますよね?生きてるってことでOKですよね??

14.01.21

 ビバ(VIVA)!物流!

お久しぶりでございます。

本にCD、家電に食料、日用品・・・。
スマホ依存とは無縁なものの、ネットと宅配には激しく依存しているもっちです
Amazonが新たに取得した特許が斬新すぎると、今朝のニュースで話題となっていました。
それは顧客の注文前に商品を発送してしまう「予期的な配送」というもの。
少し前には、無人ヘリでの配送計画を発表していましたよね。

それはそれで面白そうだなと思うのですが、もう少し現実的な物流システムとしてご紹介するのが、近年注目されている「サプライチェーン・ロジスティクス」です。

CPS事例にみる先進型サプライチェーン・ロジスティクスマネジメント

豪華執筆陣が、研究者・経営者・消費者それぞれの立場から多角的に評価・解説されています。

13.12.11

小津安二郎監督、没後50年を前に<2 映画感想>

「あとから、せんぐりせんぐり生まれてくるわ」
-『小早川家の秋』(小津安二郎 脚本・監督、
  原 節子、中村鴈治郎、森繁久弥他 出演、東宝、1961)-


「あとから、せんぐりせんぐり生まれてくるわ」

「せんぐりせんぐり」とは、「繰り返して、順繰りに」との意味。関西の言葉でしょうか?起源の古い言葉なのでしょう。
この短い台詞に、吉田喜重監督が評論の中で繰り返し述べている「小津映画の小津映画たるゆえん」が垣間見えた気がしました。

エンディングも近づいた一場面、珍しく端役での登場だった農夫役 笠智衆さんの台詞です。
晴れ渡る秋の虚空に突き出した火葬場の煙突から噴き出す煙。
川岸で農具を洗いながら、夫婦の農夫がそれを眺めている。
若い人だったら気の毒だと同情する妻にこたえて、夫は冒頭の台詞をひとり言のようにつぶやくのです。

短くてさりげないため、聞き逃してすらしまいかねないこの台詞こそ、他の作品には見当たらない小津監督自身の独白、自らの死生観をつぶやいたものに他ならないと私には思えました。

「元来、人は来る日も来る日も昨日と同じ生活、反復を続けるもの。変わらぬ日常こそがドラマであり、そのドラマを撮り続けることを小津監督は自らに課したのではないか」

と評論『小津安二郎の反映画』の中で著者 吉田喜重監督が推察していますが、これを受け、僭越にも私は次のように思いました。
――親から子へ、子から孫へと、人びとは次の世代にバトンを繋ぎ、「血」が守られ生活が受け継がれていく。絶えることのない反復。それを最小限の言葉で端的に語ったのが、冒頭の台詞に他ならないのではないか。

――何も起こらぬ日常こそがドラマ……。逆説的ではあるが、小津映画を語る上でこれ以上の真理は見当たらないのではないだろうか?だからこそ、俳優たちは過剰な演技を一切排し、ごく自然に振る舞うことを徹底して求められたのではないだろうか。

「小早川家の秋」は松竹ではなく、東宝映画作品として作られ、封切られた作品です。
印象的なカラー、おなじみのカメラアングルなど映像はいつもながらの魅力あふれるものですが、松竹作品とはどこか違っていて、出演陣も、原節子さんら小津組のレギュラー陣に加えて中村鴈治郎や東映の個性派俳優、森繁久弥、宝田明、小林桂樹、新珠三千代がずらっと顔を並べ他流試合のイメージもあります。

それでも、相変わらず女優さんらは皆とても美しいし、秋真っ盛りの大阪、京都の古い街並を美しく切り取った枕カット等、小津監督ならではの熟練の技、演出が冴えわたっています。

また、この作品に限ったことでなく、小津映画のもう1つの得がたい魅力として、脚本や演出で家族を思いやる人びとの美しい心持、そして美しい穏やかな日本語を丹念に描いていることが挙げられると思います。

「秋日和」で親子を演じたばかりの原節子さんと司葉子さんが義理の姉妹に姿を変え、京都・嵐山の桂川のほとりを会話を交わしながら歩くシーンがありますが、画面から美しい日本人の心がにじみ出てくるようで清清しい感動を覚えます。

小津監督の映画作品が欧米など海外で高く評価されていますが、1つには、こうしたつつましくて美しい日本人の姿が好感を呼び、作品の評価につながっているのではないかとも思われ(勝手な解釈ですが)、日本人であることを非常に嬉しく誇らしく思う気持ちになれます。

1960年の「秋日和」に続いて主演した原節子さんにとって、この映画は最後の小津監督作品の出演となりました。
小津監督の没後、一切の芸能活動を中止して引退した女優 原節子としても最晩期の作品といえると思います。



「小早川家の秋」(小津安二郎 脚本・監督、
 原 節子、中村鴈治郎、森繁久弥他出演、東宝、1961)

13.07.13

切腹~三國連太郎さんの死去に際して再鑑賞(かなり遅いですが)~

モノクロの自然光を生かした映像、低くて重いゆっくりと発せられるオープニングのナレーション、そして静寂。このような静けさの醸し出す緊張感は日本特有のものです。

1962年に公開された時代劇の名作 『切腹』(松竹) は、こうして観る者すべてにサスペンスを予感させながら幕が上がります。ぞくぞくする、スリリングこの上ないオープニングです。

戦が無くなり、仕官の道が断たれた(仕事が無くなった)下級武士の悲哀をリアルに感じさせ、その日の暮らしすらおぼつかない中でも武士たちが尊重する 「武士道」 とは何なのかを問いかける脚本が素晴らしく、仲代達也、三國連太郎、丹波哲郎らの重厚な演技と、悲哀・苦痛・残酷・冷笑などさまざまな人間の感情を陰影濃く捉えたモノクロ映像にひと時も目をそらすことはできません。
ラスト近く、尾羽打ち枯らした津雲半四郎が武家に伝わる祖先の甲冑に倒れ掛かるシーンがこの映画のテーマを象徴しています。

1962年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。国内よりも海外(欧米)で注目され、高く評価される作品というのがときどきありますが、この作品も典型的なそれだと思います。



まだまだ観たい昭和の名優、名演技

三國連太郎さんが亡くなった後、5月にこの映画と『復讐するは我にあり』(今村昌平監督)、そして『戒厳令』(吉田喜重監督)を借りてきて再鑑賞しましたが、この『切腹』も含めて「娯楽」と呼べる要素はほとんどなく、社会派ドラマだったり観念的な作品だったりで、観ていて何かを考えさせられるものばかりでした。

返して言えば、単にその時面白ければいい、というのでなく、観る者の記憶にいつまでも残る、深い感銘を刻み込むことを目指したような作品に、三國さんという役者さんは特に欠かせない存在だったのではないでしょうか。

政治的理由でもあるのかDVD化されていないのですが、『閉鎖病棟』で知られる帚木蓬生原作の日本アカデミー主演男優賞を受賞した主演作『三たびの海峡』をいつかぜひ観たいです。
きっと原作同様、一度観たら忘れられない映画だと思います。



「切腹」(1962、日本。監督:小林正樹 主演:仲代達也、三國連太郎)

13.06.10

フジコから始まる音楽の旅(JOURNEY)

音楽のある生活、っていいものですね♪
私は元々、特別音楽が好き!というわけではなかったのですが、
今年5月は、結果的に「音楽強化月間」となりました。

はじまりはフジコ。
もう何年前になるのでしょう。とあるドキュメンタリー番組で紹介されてから、そのドラマティックな人生とあいまって、一躍人気となったフジコ・ヘミング。
彼女の「ラ・カンパネラ」を、いつか生で聞いてみたいとずっと思っていました。
岡山に来てくれると知り、(フジコの)年齢的なことも考え、ついにその「いつか」を決行することになったのです。


「フジコ ~あるピアニストの軌跡~」[DVD]

「奇跡のカンパネラ」[CD]

200年前のものだというゴージャス&シックなフランス製アンティークドレスで登場したフジコ。
すごく似合っていて素敵でした☆
そして演奏がはじまり・・・・・・。
良かったぁ・・・。(´Д`)ハァ…
正直、ちょっと「あれ?」と思ってしまった部分もあったのですが、
きっとそれらも含めてのフジコなのだと思います。
独特の表情がつけられた彼女の演奏は力強くも温かく、ときに切なく、涙を誘う。(;△;)
楽しみにしていた「ラ・カンパネラ」はもちろんのこと、ショパンもすごく良かったです。
ショパンは昔から好きでCDも持ってはいるのですが、フジコが奏でるショパンでなければ、もう満足できない体になってしまった気がします。

「憂愁のノクターン」[CD]
ノクターンがもっと入ってるといいのに!

そして翌週末は、
大野雄二&ルパンティック・ファイブによる「ルパンティック ジャズ・ナイト」
奇しくも、前週からの「ふじこ」つながり(フジコvs.不二子)でした!

私は純粋に音を楽しみ、「やっぱジャズ、かっけ~!(格好いい)」と心の中でつぶやきつつ堪能していたのですが、ルパンファンの方ならさらに思い入れたっぷりに楽しめたのだろうと思います。

そうそう、メンバーの中に、ボストンのバークリー音楽大学に留学歴ありという人がいて、昨年訪れたボストンのことが思い出されました。
ニューヨークの駅や街角で演奏していた人たちは、いかにもストリートミュージシャンって感じの風貌(偏見?)だったのですが、ボストンで見かけたのは、ちょっとええとこの学生さん風で、有名な音楽大学に通っている若者かしら?なんて思っていたんです。

LUPIN THE THIRD「JAZZ」

続いては、音楽ドキュメンタリー映画を2本鑑賞。

まずは「ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン」
無名のフィリピン人シンガーだったアーネルが、新しいリードボーカルを探していたジャーニー(JOURNEY)のメンバーによってYouTubeで見出され、新ボーカルとして迎えられる!
ネット時代ならではのサクセス・ストーリーです。

人は生まれながらにして平等ではないし、努力が報われるとも限らない。
でもだからこそ、ごくごくまれに、諦めなければ夢をつかめることもある、そんなおとぎ話に激しく胸が躍るのです。o(^o^)o ワクワク

「ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン」 [DVD]

「ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン」 [Blu-ray]

小柄で童顔、「いかにもアジアン」な彼が、40歳にしてつかんだアメリカン・ドリーム。
「Don’t Stop Believin’」の歌詞は、彼の人生にリンクする。

だけどこの映画は、ただのサクセスストーリーに留まらない。
メンバーが語る「成功に伴う代償」の話は興味深く、ジャーニー(JOURNEY)というバンドが抱えていた問題、それゆえの葛藤やプレッシャーなどもリアルに感じることができました。
そして何より、アーネルの伸びやかな歌声は心地よく、小さな体でステージを飛び跳ね、キラキラした瞳で走り回る姿に魅了される。
そしてサラリと語る過去の断片、謙虚で真摯な姿勢に胸を打たれる。o(iДi)o
彼を見つめるおじさまメンバーが、すごくうれしそうで、優しい目をしていたのも印象的。

「LIVE IN MANILA」 (BLU-RAY) (2010)

「Live in Manila」 [DVD] [Import] (2009)

彼らの旅(JOURNEY)はまだまだ続く。
苦労に苦労を重ねてきたからこそ、完璧な幸せなどない、人生にはトラブルがつきものだということを、アーネルはよく分かっている。
彼がやっと掴んだ幸せが、どうか少しでも長く続きますように、彼の周囲が少しでも平穏でありますように、数多の誘惑にも負けることがありませんようにと、願わずにはいられない。

オールドファンのみならず、私のように「glee」からジャーニーに入りました、というような人でも、十分に熱くなれる映画だと思います♪

「glee/グリー 踊る♪合唱部!?」 vol.1 [DVD]

Glee: the Music-Journey to Regionals Ep [EP, Import]

「グリー 踊る♪合唱部!?」<シーズン1>Volume 1 [Soundtrack]

そしてもう1作は「シュガーマン」
こちらも永い不遇の末に起きた奇跡のお話。

「シュガーマン 奇跡に愛された男」 [DVD]


「シュガーマン 奇跡に愛された男」 [Blu-ray]

印象に残っているシーンの中に、「シュガーマン」ことロドリゲスが、土木作業の仕事に行く際も、スーツ姿で格好良く出勤していたというエピソードがありました。
それは決して「格好ばかり気にして」とかそういう話ではなく、姿勢の問題なのです。

そして思い出したのが、昔ドキュメンタリー番組で見た、あるホームレス男性のこと。
小奇麗なシャツを着て、丁寧に入れたお茶を飲みながら折り畳みチェアに座って本を読むその姿は、普通の、というかむしろ、休暇にアウトドアを楽しむ上品な紳士といった風情でした。野宿生活であっても毎日きちんと身なりを整え、意識して規律ある生活を心がけていると言っていました。

昔東京で出会った「ビッグイシュー(※)」販売員さんにもそんな人がいました。
それ以前に大阪で見かけた販売員さんは、ちょっと近寄りづらい雰囲気で、気弱な私は声を掛けることができなかったのですが、東京で出会ったその人は、身奇麗でとても感じがよく、何でこの人が?と思ってしまうような人でした。もっと近ければ定期購読者になって応援するのにと、残念に思う反面、きっとこの人なら大丈夫だろう(這い上がれるだろう)とも思いました。

易きに流されがちなのが人間です。
もしも縛りがなくなれば、私なんてどんどん自堕落番長になってしまいそうで怖いです。
どんな状況にあっても、その場でできることに身を尽くし、自分を律することができる人って、すごく尊敬します。

※「ビッグイシュー」:ホームレスの自立を支援する雑誌。
  ホームレス自身が路上販売し、1冊300円の内160円が販売者の収入となる。

『ビッグイシューと陽気なホームレスの復活戦―THE BIG ISSUE JAPAN』

『ビッグイシューの挑戦』

そして、どんなに周りの状況が変わっても、ブレない男、ロドリゲス氏は、招待されたアカデミー賞受賞式への出席も、(土木の)仕事があるからと断ったのだそうです。カコ(・∀・)イイ!!

映画の中で、印税のことだけがどうしてもモヤモヤと気になっていたのですが、このサントラの売上は、ちゃんとロドリゲスさんに渡るそうです。みんな、ポチってあげて!

「シュガーマン 奇跡に愛された男」オリジナル・サウンドトラック

13.02.22

 ネロが焦がれたルーベンス + 「怖い絵」

今日も仕事が終わらない。
パトラッシュ、僕はもう疲れたよ・・・。


『フランダースの犬 』

完結版『フランダースの犬 』DVD

あの時のネロと同じような気持ち(?)で、私も今、ルーベンスの絵を眺めています。
デスクに置いた卓上カレンダー。「大エルミタージュ美術館展」で昨年購入したものですが、2月を飾っているのが、ちょうどルーベンスの絵だったのです。
(ネロが見たのとは別の絵ですが)

前ブログで書いた名古屋遠征。実はミュージカル観劇の他に、この展覧会(in名古屋市美術館)訪問も目的の一つでした。

訪れたのは、『怖い絵』シリーズなどでお馴染み、中野京子氏の記念講演開催日。
到着した開演1時間前には既に満席。さすが中野先生、大人気です!
私は立ち見で参加しました。


『怖い絵 泣く女篇』文庫

「絵を見るのに理屈なんていらない。ただ感じればいいんだ。」という人がいます。
確かにそういう絵もあるのでしょう。でも、絵を描くことに意味があった時代、その時代特有の風俗や背景を知らなければ、感じるものも感じられない。
そんなことを教えてくれたのが中野氏でした。


「たとえばドガの踊り子の絵。当時のパリの常識では現代と全く異なりバレエはオペラの添え物でしかなく、バレリーナは下層階級出身の、娼婦と変わりない存在でした。それを知っているといないのとでは、ドガの作品が与える印象は180度といっていいほど違ってくるのではないでしょうか。」

                            (中野京子著『「怖い絵」で人間を読む』より)

絵画を「読み解く」ということ。
私のように絵心皆無な人間にとって、ただ「感じろ」というのは存外にハードルが高いもの。
だけど時代背景や人物の関係性などの予備知識を持って、そこに込められただろう想い、繰り広げられたかもしれないドラマを妄想しながら眺めることを始めると、それが俄然面白くなってくるのですo(*^^*)o。


『「怖い絵」で人間を読む』
お話は面白く、サインもいただき、満足しました

「歴史は勝者が作るもの。」
「見方を変えれば、物事はまったく違ったふうに見えてくる。」

講演会での中野氏の言葉はウィキッドにつながり、また以前聴いた吉村作治氏講演会でのお話も思い出されました。

「海の魚たちを描いた壁画(とか道具)があったとする。それを見た人はまず、昔この辺りは海に近かったのだと思うだろう。でも実際にはその時代、そこは海からかなり離れていたことが分かったりする。遠いからこそ、めったにお目にかかれないからこそ、いつか見た(聞いた)海や魚に憧れる。身近にあるものでなく、憧れや渇望を描き残すということもある。」
その話を聞いた時、「目から鱗」がボロボロとこぼれ落ちたような気がしました。
魚だけに・・・・・・(^^;) 。


『ルーベンス ネロが最後に見た天使』

ネロも焦がれたルーベンス。
カレンダー掲載作品の他、展示の中にあったのが「ローマの慈愛」。
これがなかなかの衝撃作でした(゚д゚)。
「これぞ究極の慈悲!親子の絆!」と感動する人もいるのでしょうが、人間が未熟だからか、母性が欠けているせいか、私は生理的にちょっと・・・と思ってしまいました。
ネロ、ごめん。

とはいえ、巨匠といわれる画家たちでも、ゴッホをはじめ生前ほとんど評価されていなかったという人は多く、逆に現役時代は人気があっても、それが後世まで続くという人もまた、まれだといいます。
生前から名声を博し、現在に至るまで高い人気を保ち続けているルーベンスが、とても稀有な存在であることは間違いありません。

ルーベンスの他にもレンブラントやモネ、セザンヌ、ピカソ、マティスなど、時代・ジャンル共に幅広い作品が展示されていました。
レンブラントがよかったなぁ。

公式MOOK

『ロマノフ王朝の至宝』

12.10.22

 いいプレイをする奴なら、
     肌が緑色の奴でも雇うぜ

またまたお久しぶりです。
終わらない繁忙期、・・・。追われ続ける日々・・・。
いつか・・・、落ち着ける日は来るのでしょうか。
というわけで、気分転換に久しぶりのブログ投稿です。

9月の始め、名古屋に行ってきました。
メイン目的は、ミュージカル「ウィキッド」を見ること。
実は本場ブロードウェイでミュージカルを見る!という野望があり、そのための予習だったのですが、数ある作品の中で、なぜ「ウィキッド」なのかといいますと・・・、
アメリカンドラマによく出てくるから
「アグリー・ベティ」しかり、「glee」しかりです。

アメリカでは、ミュージカルなどのショービジネスが生活に浸透しているのだろうなと思うと共に、そこに登場する作品を知れば、きっとドラマもさらに深く味わえるだろうと思ったのです。

「アグリー・ベティ シーズン1」コンパクトBOX [DVD]

観劇したのは千秋楽の前日。
千秋楽1週間前からカーテンコールがスペシャルバージョンになるということもあってか、常連さんと思しき人の姿が多く、初心者の私は少々緊張しておりました。
ですが、結果、すごく、すごく良かったです!!!
ありきたりすぎる台詞は使いたくないけど、でもまさに
「感動をありがとう!」って感じでした。
一幕終わりの曲「自由を求めて」(原題は「Defying Gravity」)は特に素晴らしく、心が震えました。感涙。・゜゜・o(iДi)o・゜゜・。
休憩時間に入ってからもしばらく動けず、ぼーっと余韻に浸っておりました。

「glee」で、レイチェルとカートが歌姫対決した時の曲がこの「Defying Gravity」。
あのエピもよかった☆

「glee/グリー」DVDコレクターズBOX

グリー 踊る♪合唱部!?<シーズン1>Volume 1 [Soundtrack]
   

「ウィキッド」は『オズの魔法使い』のプロローグというかアナザーストーリー。
少女ドロシーが出会った二人の魔女(西の悪い魔女エルファバと南の良い魔女グリンダ)が主人公。
緑色の肌と魔法の力を持って生まれ、自由と正義を求めたはずの少女エルファバが、なぜ邪悪な魔女と呼ばれるようになったのかを描いた物語です。

『オズの魔法使い』

「オズの魔法使」特別版 [DVD]

   

児童文学がモチーフとはいえ、これが侮れません。
正義とは何か。多数派=善なのか。そんなことを問いかけられる。
幅広い世代で根強い人気を誇っているのが分かる気がしました。

権力を守るためにわざと「共通の敵」を作るという、今もよくある政治手法。
「歴史は勝者が作るもの。それが真実かどうかは分からない」
数時間前に聞いた中野京子先生の言葉がよみがえりました。

世間一般では「多くの人が信じたもの」が正しく、真実であるとされる。
とりわけ日本人は「みんな」という言葉に弱く、「みんな」の決めた事柄には、常に絶対的権威と正当性が与えられてきた。
数ヶ月前に刊行されたこの本の中にも、そんな「みんなの力」の強さと危険性、「〈みんなで決めたことだから正しい〉という判断基準について」書かれている部分がありました。
とても読みやすくて面白いと思います

権力の社会学

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「みんな、頭からっぽだから、何だって信じるんだ」フィエロの言葉。
皆が考えることをやめた時、与えられるものをただ享受し、疑問を持つことをやめた時・・・。
そんな映画もありました。

これも結構おもしろかったです。

『26世紀青年』DVD

大満足だった「ウィキッド」初観劇。
ブロードウェーへの期待もますます膨らみましたo(*^▽^*)o~♪


ミュージカル「ウィキッド」劇団四季版