2009年アカデミー賞作品賞受賞!!
今回のアカデミー賞には注目していました。
先ほど「スラムドッグ$ミリオネア」が作品賞他8部門受賞したと知り、何だかもう、ちょっと泣きそうです(;△;)
学校にも通わなかった。
本も読まなかった。
でも確かに、ぼくは「答え」を知っていた。
やっとこの本をご紹介できる時がやってきました。あ~、もう↑のコピーだけでもグッときます。
今回、見事アカデミー賞作品賞を受賞した「スラムドッグ$ミリオネア」の原作、
『ぼくと1ルピーの神様』です。
随分前に読んだものですが、これがおもしろくて、いつかご紹介できればと暖めておりました。
エンターテイメント性も高いお話なので、映画化には向いているだろうなと思っていましたが、アカデミー賞までとってしまうとは!
あ、でも映画は原作とは設定、ストーリーが少々異なっているようです。
映画の日本公開は4月。映画は映画でおもしろそうなのですが、その前に是非とも原作を読み、自分の感性で味わっていただきたいです。本当におもしろいから。
映像でイメージが固まってしまう前に是非!
インド、ムンバイのスラム街に住む主人公の少年ラムは、インド版「クイズ・ミリオネア」とおぼしきTV番組で、史上最高額の賞金10億ルピーを手に入れる。
しかし、貧しく教養もない孤児の少年が難問に答えられるわけがない、とインチキの容疑で逮捕されてしまうのだ。
彼を助けるためにかけつけた女性弁護士に、なぜクイズに答えることができたか、生い立ちにからめて説明していくというストーリー。波乱に満ちた彼の人生が、8歳から18歳まで、行きつ戻りつしながら回想されるわけなのだが、この構成が実にうまい。
1問につき1エピソード。時系列ではなくクイズの出題順に語られていくため、最初は少々混乱するが、次第に「あ~、これはあそこからこうつながっていたのか!」とジグソーパズルのピースを一つずつあてはめていくようなおもしろさもある。
そしてラムの短い人生を追うことで、現代インドが抱える様々な問題も浮き彫りにされる。貧困、階級差別、強奪、児童虐待、売春、宗教対立に政治腐敗・・・。
近年、経済発展めざましいインドであるが、貧困層の生活はあまりに過酷で、その格差は絶対的である。クイズで正解するにつれ、賞金がランクアップしていくというクイズ番組は、インドの階級社会そのものを表しているのかもしれない。
淡々と語られるラムの人生の断片。状況的にはものすごく悲惨で、切ないエピソードも多い。
しかしながら彼の姿に、不思議と悲壮感は無い。
混沌に満ちた社会の中で、大人たちの身勝手な欲に翻弄されながらもそれを現実として受け入れ、その中で身を守る知恵を身に付けていく。
時に狡猾ともいえるしたたかさで窮地を切り抜けていく、そのたくましさが実にいい!
幼い頃からラムはよく逃げた。社会の底辺を這いずるストリート・チルドレンのことなど、警察も政府も、誰も助けてなどくれないことをよく知っていたからだ。
親しい人との別れも余儀なくされた。生き延びるだけで精一杯だった。
しかしある時、ただ生き延びるだけの生活から抜け出すために、彼はある決心をするのだ。
「運は自分でつかみとるもの」
それを、とてもわかりやすい形で教えてくれる。
読後感も爽快。
また、カシオのデジタル時計、ニンテンドーのゲーム機、ソニーのテレビといった日本製品が、富の象徴として随所に顔を出していたのも印象的。
著者はインドの外交官。トルコ、アメリカ、エチオピア、イギリスに赴任し、日本語版刊行時の情報ではニューデリー外務省に勤務という人物。
インドの階級社会においては明らかに支配者階級でしょう。格差や貧困など、国の状況として把握はしていても、実感としては分かるはずもないエリート中のエリート。
しかしながら、暇つぶしに書いたという本作がデビュー作にしていきなり話題となり、2006年時点で16ヶ国語に翻訳。そして映画はアカデミー賞を受賞してしまった!
なんだか若干モヤモヤしてしまうのは、貧乏人のひがみ根性というものでしょうか?
ともあれ、そんなモヤモヤを差し引いても、自信を持ってお薦めできる1冊。
いつの間にか、文庫版も出ていました。